歯周病による全身への悪影響
歯周病とは
歯肉と歯槽骨を蝕む病気
歯周病(歯槽膿漏)という病気はよく耳にすることが多いと思います。
歯周病は歯垢(プラーク)に含まれている『歯周病菌』が原因となって発症(むし歯と同様に細菌感染によって発症)します。
日頃のケアを怠り、歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット)に汚れが溜まると、その隙間にたくさんの細菌(歯垢)が蓄積していきます。
歯肉炎・歯周炎
細菌によって、歯肉が炎症を起こし、次第に赤く腫れ上がっていきます。しかし、この段階では痛みはほとんどありません。それによって、症状の進行に気づかないまま、放置してしまう方も多いです。
進行してしまうと、最終的には歯を支える土台である「歯槽骨」が溶けてしまい、歯がぐらぐらと動くようになります。
この段階は重度の歯周病であり、残念ながら抜歯をせざるを得ません。
歯医者さんでは、プローブと呼ばれる専用の器具を使って、歯周ポケットの深さを測ります。
全身への悪影響
歯周病は、お口の中だけではなく、体の様々な所へ悪影響を及ぼすことが分かっています。たかが歯周病と言わず、早期治療が大切です。
糖尿病
歯周病があると血糖値が高くなるというデータがあり、糖尿病になると免疫力が下がり歯周病も治りにくくなるという悪循環に陥ります。
誤嚥性肺炎
高齢者などが誤って食べ物を気管や肺へ飲み込んだ際に、その食べ物に歯周病菌が付いていた場合、肺炎を引き起こすことがあります。
循環器系の疾患
歯周病菌が血栓を作り、心疾患や動脈硬化などを促進してしまいます。
妊婦・胎児への影響
歯周病の妊婦は約5倍も早産リスクが高いことが明らかになっています。
骨粗鬆症
骨粗鬆症は、骨密度が低くなり骨がもろくなっている状態で、特にご高齢の女性によく見られます。歯周病による歯の喪失と骨密度の関連性が多く報告されています。
症状チェック
歯周病は日本人が歯を失うもっとも大きな原因と言われ、日本人の成人の約80%が歯周病にかかっていることが分かっています。
こんな症状ありませんか?
- ブラッシング時に血が出ることがある。
- 歯にものがはさまるようになってきた。
- 歯の根元が見えてきている。
- 口臭を指摘されたことがある。
- 歯がグラグラする。
- 咬むと痛い。
以上に、1つでも当てはまることがありましたら、お早めにご相談ください。
進行度別の歯周病治療
歯周病の進行
健康な状態
健康な歯茎は薄いピンク色をしています。
歯肉が引き締まっていて弾力があり、歯と歯の間に歯肉が入り込んでいます。
歯肉炎
歯肉に炎症が起きている状態です。
歯茎が赤く腫れたような症状がみられます。
ご自宅でおこなう歯磨きと、歯科医院での口腔ケアによって症状は改善できます。
初期歯周炎
軽度歯周病治療
歯槽骨の崩壊が始まってしまうと、軽度の歯周病と診断されます。
軽度の場合も、歯磨きの改善や歯のクリーニング(プラーク・歯石除去)によって改善できます。
治療を何度か繰り返すと、徐々に歯茎が引き締まっていきます。
中度歯周炎
中度歯周病治療
中度の症状の場合、ある程度の深さにまで歯石が食い込んでいるため、麻酔を使って治療を進めていきます。歯周ポケット奥深くにある歯石や歯周病菌に汚染されたセメント質を除去して行きます。(ルートプレーニング)
重度歯周炎
重度歯周病治療
歯の根元まで奥深く歯石が付着してしまうと、ルートプレーニングでは対処できません。
麻酔をかけて、外科的な治療が必要となります。(歯茎の一部を切開する)
歯石を完全に除去した後、歯茎を縫合していきます。
場合によっては歯周外科手術(歯肉周辺組織を再生させる治療など)が必要になることがあります。
治療の進め方
1. カウンセリング
初診時に問診票とヒアリングによるカウンセリングを行います。
まずは患者様の口腔内を検査します。
口腔環境のチェック
- 歯周ポケットの深さ
- 歯の動揺度
- 歯肉の炎症の程度
- かみ合わせ
など
レントゲン検査
レントゲン検査によって、より詳細な検査を実施していきます。
生活習慣の確認
生活習慣病等で、薬の長期服用をしている際、その薬が歯周病に影響を与えることがあります。
その際は、通院歴や服用薬歴を確認させていただきます。
2. 歯周病治療開始
治療を進めるにあたって、患者様のお口の状態に合わせた治療計画を考案し、ご提案させて頂きます。
治療計画(症状の進行具合)に合わせて、必要な治療を進めていきます。症状が軽度のうちに治療を開始することが大切です。
3. 治療後の再評価検査
治療後は、初診時と同様に歯周病検査を実施します。
治療前後を比較検討することで、正確な病状を改めて把握し、今後の治療計画に役立てることができます。
- 歯周ポケットの深さ
- 歯の動揺度
- 歯肉の炎症の程度
- かみ合わせ
以上を改めて重点的に検査し、口腔衛生状態を再評価していきます。
4.定期検診・メンテナンス
健康な状態を維持するために、歯周病の進行している方や虫歯の危険性の高い方は1~2ヶ月に1度程度、そうで無い方でも3ヶ月に1度程度の来院をお願いしています。
- ブラッシング指導
- PMTC(専門の機器を用いた歯のクリーニング)
などを実施し、患者様に予防メニューとセルフケアの方法をご提案させて頂きます。
一緒に生活習慣の改善を図りながら、完治と再発防止を目指します。
歯科医療も年々進歩しています。
歯周病になった際の治療はもちろんですが、「歯周病にならない様にするには、どうすればいいのか?」を、患者様に丁寧に説明しながら理解して頂くことが大切だと考えております。
歯周外科治療について
歯周外科治療が必要な理由
歯周病の治療では、まず歯周基本治療となる
- プラークコントロール
- スケーリング
- ルートプレーニング
が行われます。
歯周病が軽度の場合、歯根表面のプラークや歯石は歯周ポケットの中に器具を差し込むことで除去することができます。
しかし、進行した歯周病は歯周ポケットの奥深くに歯石が溜まっています。
器具だけでは歯石に届かず、きれいに取り除くことが難しくなってしまうのです。
その際は外科治療によって歯茎を切開し、歯周基本治療で取りきれなかったプラークや歯石を除去する必要があります。
歯周外科治療の目的と治療法
歯周外科治療は、大きく分けて3つの目的に合わせた処置を行います。
1:切除的外科療法
→ 歯茎に付着した汚れの徹底的な清掃。
2:歯周組織再生療法
→ 崩れた歯の土台を作り直す再生工事。
3:歯周形成外科手術
→ 見た目の改善を主目的に、外壁を修復する作業。
切除的外科療法
◇ 歯周ポケット掻爬手術
歯周ポケット内で炎症を起こしている歯周組織(歯垢や歯石)を丁寧にかき出す(掻爬・除去)手術です。
炎症の要因となっていた歯垢・歯石を取り除くことで、歯根面と歯肉の付着を促進させることができます。
◇ 歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)
歯周ポケット掻爬術でも改善しない場合、歯肉を切り開いて感染部分(深い部分に残っている歯石や感染組織)を取り除いていく手術を行います。
切開することで、歯周ポケットの深い部分(病巣)を目で確認できるようになります。
きれいに歯石を除去することができたら、部分的に切開した歯肉を元に戻し縫合して終了です。
歯周組織再生療法
歯周組織再生療法には様々な方法があります。
◇ エムドゲイン
フラップ手術によって切開した歯茎から歯根の表面と吸収された歯槽骨に、エムドゲイン・ゲル(タンパク質の一種)を塗布します。
この手術によって、歯が生えてくる状態に類似した環境(歯周組織が再生)を作り出すことができます。
◇ GTR(歯周組織誘導法)
GTRは、歯周ポケット内の歯垢や歯石を取り除き、骨がなくなってしまった部分に「メンブレン」という人工膜を挿入することで、歯周組織(歯槽骨や歯根膜など)の再生を誘導する方法です。
メンブレンを入れておくことで、歯茎の侵入を防ぎながら、歯周組織が再生するスペースを確保することができます。
◇ リグロス
リグロスとは、細胞を活性化させる成長因子で生成された歯周組織再生材(薬剤)です。
フラップ手術によって歯茎を切開した際に、歯槽骨の欠損部にリグロスを塗布します。
歯周組織を増やすことで少しずつ歯周組織を再生させます。
歯周形成外科手術
歯肉や歯肉粘膜に現れる形態異常を是正あるいは予防するために行います。
歯周病は病気の進行や、歯周病治療を行うことで、見た目に問題が生じることがあります。
歯周形成手術はこうした歯肉の審美性も改善することができる方法です。
歯や歯肉のトラブルによって見た目の悪さが目立ってしまう患者様は多いものです。
結果、コンプレックス等、精神状態に大きな影響を及ぼしている方も少なくありません。
歯周形成手術を行うことで、機能性の改善だけでなく、笑顔に自身がつくことで明るい表情を取り戻す患者様もいらっしゃいます。
歯肉の形を整えることで、患者自身がセルフケアをしやすくなるというメリットもあります。
歯周病の予防について
定期検診が、歯を守る一番の近道
歯周病は生活習慣病として位置づけられているのをご存知でしょうか?
普段の生活の中で行われる様々な習慣に関連があり、単に私たち歯科医師が治療だけ行っても、その治療成果はあがらないことが明らかとなっています。
日常的に歯科予防・定期検診を
歯周病の進行スピードを緩やかにする鍵は、ご自分の現在の歯の本数や、口の中の状況を把握することが大切です。ぜひ定期的にメンテナンスをしてください。何かが起こってしまう前に改善させれば、進行を止めることができます。
「むし歯・歯周病になったら直ぐに歯医者さんへ行く」という考え方は一般的です。しかし、一番の理想は定期的に歯医者さんへ通院して、痛くなる前に(むし歯や歯周病になる前に)常日頃からメンテナンスして予防しておくことです。
定期検診は、予防とむし歯・歯周病の早期発見に繋がります。積極的に受診するようにしましょう。